住環境の整備例(2)

S邸改修工事(寝室の造り付け収納家具) 

A、改修前の造作家具  B、改修後は三枚引き戸で目隠し  C、特別注文のチェスト 

◎車いす利用者が使用し易い収納家具を目指して

1、改修前の造作家具 

 左上写真Aは、エンジ色の改修前の寝室の造作家具(造り付け家具)であります。写真右に小窓のカーテンと車いす利用者の脚が入れるようになっているテーブル(奥行80cm)が見えています。
 約30年前に家が建てられた時に設置されたものです。造作家具の全体のサイズ(幅273cm×奥行82cm×高さ230cm)。引き出し上側の手すりの取り付け幅10cm、出っ張り幅8cm。

○エンジ色家具の収納部分についての説明 

 縦列で考えますと、三つのパートになっています。中段に長さ約270cm、直径45mmの木製の手すりが見えています。 

@左側:上段は両開き戸になっていてます。左下写真Dの上段は、「スガツネ工業の「リフトコートハンガー コールマン」ですが、ほぼ同タイプのものがここにも設置されていました。幅90cm×奥行82cm×高さ130cm。
  左側:下段は幅90cmの三段の引き出しであります。幅90cm×奥行82cm×高さ80cm。

A中央:上段は天袋で両開き戸になっていてます。幅120cm×奥行82cm×高さ50cm
  中央:中段も両開き戸で、布団などが入れられるように、上段の天袋と同じように空スペースになっていました。幅120cm×奥行82cm×高さ90cm
  中央:下段は幅120cmの三段の引き出しであります。幅120cm×奥行82cm×高さ80cm。

B右側:上段は開かない固定の戸なので、デッドスペースであります。幅63cm×奥行82cm×高さ50cm
  右側:中段は観て分かりますように空スペースになっています。幅63cm×奥行82cm×高さ90cm
  右側:下段は幅63cmの三段の引き出しであります。幅63cm×奥行82cm×高さ80cm。 

○残しておきたい部分とお気に入りの点

・ 約30年前に、その当時販売されていた部材で、車いす利用者が独りで暮らして困らないようにと考えられた造作家具であります。リフトコートハンガーを引き出す時にも、引き出しを引く時にも、中央の中段にあるものを取り出す時にも、車いす利用者は脚で踏ん張るという動作はできないですから、片方の手で手すりを持って体幹を保つために、この長さ270cmの手すりを施主様は気に入っているようでした。

・ @の下段の引き出しについて、スラックスをクリーニングに出し戻ってきたウエスト部分が33cm、たたまれたワイシャツの長さが30cmを並べて入れられるほどに、内寸の奥行きに余裕がありました。左側の三つの引き出しに、春夏もののスラックスとワイシャツ、秋冬もののスラックスとワイシャツ、三番目の下の引き出しにセーター類を入れていたようです。引き出しの奥行きに余裕があると収納が楽だったようです。

・ この造作家具とベッドとの間の有効幅員は125cmですが、左側は通路になっていましたので、「リフトコートハンガー コールマン」を動作するのに固定の障がい物はありませんでした。

・ 右側の引き出しには、半袖や長袖の上の下着、パンツ、ソックス、ズボン下などの下着類が入れられていたようです。

・ エンジ色の造作家具のなかに、施主様の衣料品とベッド周りの布団や新品のタオルなどが収納されていました。クリーニングから戻ってきた折りたたまれた衣料品を収納するだけなら困らないほどの、大変素晴らしい収納力のある造作家具のようでした。

○問題点 

・ 阪神大震災の地震などで、扉の金具の調整をしようとしても元に戻らないようでした。開いたままですと、埃が入って収納されたものにとっても良くないですし、外観で見た目も良くありません。

・ 左側上段に設置された「リフトコートハンガー コールマン」礼服から春夏秋冬もののスーツやジャケットやブルゾンなどを掛けると、服と服の隙間がなく大変重量が増してしまいます。車いす利用者がレバーを引いても容易く前に出て来ないということでした。一つの「リフトコートハンガー コールマン」四季の衣料品すべてを掛けるというのは無理があるようです。

・ この造作家具の前に移動式ダブルハンガーラック(幅86奥行39高さ165〜)が置かれていました。普段着・スポーツ用ユニフォーム・パジャマなど、自宅で洗濯して乾かしたものがハンガーに掛けられていました。

・ 中央下段の引き出しの幅は120cmですが、あまりに詰め込み過ぎると重くて引き出しが開けられない閉めにくい。もう少し引き出しの幅は狭いほうが使いやすいようです。

2、改修後の収納 

○改修後の造作家具の希望 

@ 春夏ものと秋冬ものとを分けてスーツやジャケットなどを収納するために、「リフトコートハンガー コールマン」が二つ欲しい

A 普段着用のハンガーコーナーが欲しい

B スラックスやワイシャツやセーターなどを収納するチェストが欲しい。

C 下着(パンツ・半袖・長袖・タイツ・ソックス・ハンカチなど)を収納するチェストが欲しい。 

D 帽子を収納するが欲しい。 

E 中段に長めの手すりが欲しい。 

F できれば三枚引き戸にして、収納アイテムすべてを隠したい。 

G 車いすで接近しやすく使用しやすい収納家具にしたい。 

○左上写真Aの収納家具に収納されていた布団やシーツ、バスタオル等は、新しく購入した引き出し付きベッドの引き出しに収納しているようです。 

○概要と感想 

 中央上写真Bは、大建工業の間口245cmの三枚引き戸です。このサイズが273cmに一番近かったので245cmにしました、収納アイテムをすべて隠せてスッキリとした外観になりました。

 右上写真Cで、手前にベッドが見えていますが、ベッドと引き戸との間の有効幅員は154cmあり、車いすで収納家具に容易に接近できるとともに、チェストの引き出しや「リフトコートハンガー コールマン」を引き出す時の動作に十分対応できるようです。
 チェストの上側に、木製の手すりを3枚引き戸の内側に取り付けました。チェストの引き出しを操作する時や「リフトコートハンガー コールマン」を引き出す時等に、この手すりを片手で持ちながらそれぞれの動作ををするのに、車いす利用者にとってはなくてはならないもののようです。
 手すりは、長さ約240cm、直径32mmの木製の手すりで、手すりの取り付け幅85mm、出っ張り幅70mm。

 左下写真Dの左下に、固定のハンガー掛けが見えておりますが、このスペースは「アクティブ・コーナー」で普段着やスポーツの練習用ユニフォームやパジャマ等、日常生活で頻回に着替えをする衣料品を収納するスペースであります。

 中央下写真Eで分かりますように、右上段の棚と下段のチェストを入れる前の状態であります。

 右下写真Fは、特別にオーダーしたチェストを設置し、右端上側にが設置され「帽子」が並べられた写真であります。

 左上写真Aの造作家具は、S氏が独身時代に使用していたものですが、床の絨毯も車いすでは走行が重く腕に力を入れなければ前に進まないのでフローリングに以前から改修したかったらしい。そして、カウンターの奥行きが80cmあり、小窓のカーテンまで手が届かなくて、カーテンを開くことも窓を開けることも容易にできなかったようです。

 左下写真Dの右側に、小窓とカウンターが見えていますが、改修後はカウンターの奥行きを70cmにし、小窓にはロールカーテンを設置して、カーテンと窓の開閉を容易にしてあります。

 右下写真Fの特別注文のチェストについて、S氏はホームセンター又は家具屋に行けば、チェストのサイズが豊富にあり低価格で手に入れられると思っていたようです。他に考慮しなければならない改修ヶ所がありましたので、全体の改修の最後にチェストの特別注文の決断をされました。

 通信販売のカタログやホームセンターや家具屋等のチェストよりも、特別注文のチェストは数倍の価格になりますが、スペースに合ったサイズを数ミリ単位で調整してくれ、外観も使い勝手も大変良い。これから20年以上365日毎日引き出しを出し入れする動作を考えると、与えられたスペースに最大限のサイズでつくられた特別注文のチェストに大変満足されているようでした。

 書き忘れていましたが、S氏邸の改修は約1年前に施工されたもので、使い勝手が良いかどうかを聞いてこのページを作成しております。

 最後に、現在この造作家具はご主人のみが使用しておりますが、一年を通して一度も着ていない衣料品がけっこうあるようです。改修前に随分な量を整理し捨てたそうです。現在収納されているすべてのアイテムが気に入っているらしく、、いつでも着られるように収納しているとのこと。奥様は、2階にある置き家具に収納しているようです。

 しかしながら、十数年後奥様が2階に上がることが容易にできなくなった時に、再度衣料品の断捨離をして、お二人(夫婦)でこの造り付けの収納家具を使う予定にしているようです。

 現在と将来のことを考えた造作家具に、大変満足されていました。

D、上段二機のトールマン E、下段チェストスペース F、下段特注チェスト

平成 29年 7月 上旬

日本における住環境の現状 / 福祉住環境コーディネーター / 住環境の整備について

介護保険制度と住生活との関係 / 町角のバリアフリーの意識 / 住環境についての質問コーナー