アダプテーション(adaptation)を辞書でひきますと、「適合」「適応」となっています。ハウスアダプテーションとは住環境を当事者の生活要求に適合させる行為ということになりますが、ただ単に当事者の身体能力に合わせて住宅改修をするという手段だけにとどまらず、当事者の不安やストレスに対応したり新築・住み替えなどの手段を包括した考え方のようです。
様々なハンディキャップやストレスや悩みが生活をするうえであるわけですが、当事者の生活を快適にするために前述のことなどをどのようにして解消すべきかを住まいを通して考えるのがハウスアダプテーションなんですね。日本では「ハウスアダプテーション」を住宅改造・住宅改修・住宅改善と同義として使用することもあるようです。
ハウスアダプテーションについて、詳しく知りたい方は下記のアドレスにアクセス及び書籍を参考にしてみてください。
◎インターネット
○野村みどり研究室(東京電機大学情報環境学部)のホームページ
★病院の子どもヨーロッパ協会EACHのメンバーである「こどもの病院環境&プレイセラピーネットワーク(略称:NPHC)」の研究会・フォーラム、活動紹介
★車いす体験学習プログラムの開発:国土交通省あらかわ福祉体験広場(都内足立区)
★高齢者医療環境に関する『体験談・生の声』募集コーナーなど
※ハウスアダプテーション関連書籍・情報あり。
◎書籍
○「在宅介護を考える ハウスアダプテーション用語集」(財団法人 住宅総合研究財団 高齢者のすまいづくりシステム研究委員会編著 中央法規出版)
○「住まいのバリアフリー ハウスアダプテーション 実務者のための手引書」(野村みどり 監訳 褐囃z技術出版)
A、建築会館ホール前オブジェ | B、建築会館ホール前オブジェ |
今回のハウスアダプテーション・フォーラムhttp://www.jusoken.or.jp/koreisha.htmの会場の建築会館は、JR田町駅から徒歩約3分のところにあります。建築会館の建物へのアクセスについて、車いすでは道路から歩道へは若干の段差があります。建築会館の玄関及びその向かいのホールの入口は、歩道のレベルより高くなっていて上写真と同じレベルにあるのですが、歩道からはスロープで上がれるようになっていました。上写真は建築会館ホール前にあるオブジェなのですが、このスペースがとてもお洒落(芸術的)で不思議な雰囲気でしたのでつい立ち止まって眺めてしまいました。
さて、ハウスアダプテーション・コンクール優秀事例発表フォーラムに出席することができ、5つの事例の説明を聞くことができました。それぞれに素晴らしいデザインや造作の新築・改造・改修なのですが、共通して感じたことはそれぞれに人間関係がうまくいっていたということです。住宅改修の物理的ノウハウを説明した書物はありますが、本当はそういった物理的ノウハウとともにこの人間関係の構築が大切だと思うんですよね。ここでは物理的な住環境整備(住宅のデザインや造作や設備)の素晴らしさよりも、人間関係の素晴らしさやネットワークの構築に焦点をあててみました。
1の「障害者を持つ家族が共に明るく過ごせる家」では、奥様が障害を持たれているのですが、手首や指が動かない奥様のためにご主人がプランニングした住宅です。奥様中心の生活環境の整備のために、ご主人が様々な自助具を考案し作成されていました。ご主人の奥様への愛情を奥深く感じさせる家(住環境整備)でありました。
2の「円い家[形・心・家族・近隣]」では、道路と玄関との高さ1mの高低差を建物の形状にそったスロープによって解消していて、西洋風の機能的でお洒落なデザインの家であります。設計段階で当事者と設計者との共同で各動作について確認し、当事者(夫婦)への配慮が感じられる家でありました。当事者が名付けた「円い家」というのは良好な人間関係を表しているように感じました。
3の「住み慣れた所に永遠に−本郷町の家−」では、住宅内が天井走行式リフトになっています。この天井走行式リフトにするためのシュミレーションをしているわけですが、各動作や位置などの確認のために多くの方が関わったようです。住環境の改善をすることによってよりご夫婦そして家族や近隣の関係が円滑になっているようです。
4の「車椅子の為のマンション改修」では、車いすを利用している当事者が、マンションで暮らしていくために改修にふみきった事例であります。当事者の身体状況を把握するための聞き取りから、建築士・医師・福祉住環境コーディネーター・ケアマネジャー・看護師など多くの方が協力して改修プランを考え、当事者と打ち合わせを繰り返し住環境整備したものであります。当事者を精神的にもサポートした理想的なネットワークの構築ができていたようです。
5の「高齢者夫婦二人が共にゆったり暮らす家」は、高齢のお二人に手のかからない庭や操作のしやすい器具や位置などに配慮されたユニバーサルデザインの住宅であります。ご主人と奥様の二人が階下でゆったり暮らすための家でありますが、ケアマネジャーとの連携(アドバイス)で車いすでの移動にも対応した住宅になっているようです。
上記はほんとに簡単な説明と感想なのですが、フォーラムで実際にビデオやスライドで工事の様子を見ながら建物・機器・器具の細部の説明を聞いておりますと、設計者のセンス(デザイン)の良さや設計者側が苦労されたところや人間関係の素晴らしさが伝わってくるのです。建物を通してそれぞれにドラマがあって感動してしまいました。
最後に、住環境整備において設計者及び施工業者さんが、当事者及びその家族や当事者が関わっている医療従事者(医師・理学療法士・作業療法士・看護師など)や在宅介護支援関係者(ケアマネージャー・ヘルパーなど)などに、上記の例のように積極的に当事者の身体状況を把握して対応できるようにネットワークを構築して、ハウスアダプテーション(住宅の新築・改築・改修)をしてもらいたいと願っております。
優秀賞
1、「障害者を持つ家族が共に明るく過ごせる家」 (所在地 北海道北見市)応募代表者 伊藤裕治氏
2、「円い家[形・心・家族・近隣]」 (所在地 千葉県千葉市)応募代表者 橋本彼路子氏(スタジオ3)
3、「住み慣れた所に永遠に−本郷町の家−」 (所在地 広島県豊田郡)応募代表者 佐伯 博章氏(株式会社 地域総合設計)
4、「車椅子の為のマンション改修」 (所在地 岡山県岡山市)応募代表者 中山 裕里香氏(手すりの会)
5、「高齢者夫婦二人が共にゆったり暮らす家」 (所在地 石川県金沢市)応募代表者 吉島 衛氏(吉島衛建築研究室)
○日時 :2004年6月19日(土)
○会場 :建築会館3階 会議室
○主催 :財団法人 住宅総合研究財団(住総研) ハウスアダプテーション研究委員会
○社団法人 日本建築学会
〒108-8414 東京都港区芝5丁目26番20号
Tel.03-3456-2051 Fax.03-3456-2058
今回のアダプテーションン・コンテスト会場3階(http://www.aij.or.jp/aijhomej.htm)
○社団法人 日本建築学会 総務部
〒108-8414 東京都港区芝5丁目26番20号
Tel.03-3456-2016
イベント・ホール(http://www.aij.or.jp/jpn/hall/)(身体障害者用トイレあり)
1990年にロン・メイスが提唱(米国ノースカロライナ州立大学ユニバーサルデザインセンター所長)したデザイン概念で、できるだけ多くの人々に使用可能であるように、製品・建物・空間をデザインすることであります。下記のHPの7原則によって、快適に暮らすことの可能な環境づくりを目指したものであります。
○ユニバーサルデザインの7原則
http://web.sfc.keio.ac.jp/%7Es99433as/ud/f001principles.html
○ユニバーサルデザインについての私見
ホテルに予約する時に、「車いすで宿泊できるようになっていますか」と聞いてみますと、「うちのホテルにはユニバーサルデザインの部屋があります。」という返事がかえってきます。
今までの経験(旅情報)から、ホテル側の「ユニバーサルデザインの部屋」という言葉に共通しているのは、部屋内のベッド側から洗面所・トイレ・浴室側に移動する時に、入り口に段差がなくほぼフラットになっていることを指しています。おおまかに言えば、部屋内のベッド周りのスペース、洗面台の位置(高さ)、トイレのなか(便器の周り)の手すりの有無や車いすでの回転スペース、浴槽周りの手すりの有無や車いすでの回転スペースなどは、ホテルによってユニバーサルデザインの解釈に違いがあるのでしょうか、それぞれに独自の設計で、かならずしも車いすで利用しやすいとは言えない部屋もあります。(宿泊の時は、宿泊可能かどうか個々人で確認しましょう。)
ユニバーサルデザインとは、施設内及び設備や機器・器具に対して最大限多くの人々が対象で利用しやすいものと思われています。しかしながら、この「最大限多くの人々」とはいったい誰のことを言っているのだろうかと疑問に思うことがあるのです。
ホテルを例にとってみても、建物設計時に限られたスペースや予算などがあるわけですから、部屋に宿泊可能な対象者の身体能力をどのレベルに合わせるかを考えて設計しているものと推測しております。
また、今まで使用した身障者用トイレ又は車いす用トイレ(天井走行式リフト設備のトイレを除く)と呼ばれているトイレのなかで、すべての車いす利用者に使用可能であろうと思われるトイレは残念ながらありません。
車いすに乗っていても、短い距離しか歩けないとか手すりがあれば立ち上がりは可能といった筋力が低下した高齢者から四肢麻痺・左(右)半身麻痺・下肢麻痺他など人によって障害の部位も身体能力も違いますから、すべての車いす利用者に対応するというのは大変難しいしいわけです。
ユニバーサルデザインの定義は素晴らしいと思いつつも、障害を既に持っている利用者(senninさん)にとってみれば、ユニバーサルデザインの範囲があいまいに思えてしまうことがあるのですが、皆さんはいかがですか?
平成16年 6月 現在