住環境の整備例(1)

T邸増改築工事(その1) 

改修前外観

改修前玄関

   増改築後外観     

◎依頼を受けたら 

 息子さんからの依頼で福祉住環境コーディネーター(以後、コーディネーター)として、Tさん(ご本人)にとって過ごしやすい住環境にするためにT邸の改修工事のアドバイスをすることとなりました。

 まず最初に、ご本人の身体状況を知るために、ご本人に直接会ってお話を聞き、そしてご本人の話しておられることをどこまでご家族の方が認識されているかを確認しました。逆にご本人が話さなかったこともご家族の方から聞ける場合もありました。また、ご本人がお世話になっているケアマネージャーさんやPTの先生ともお話して、ご本人の身体状況についてより詳細にお聞きしました。 

※ご本人やご家族の方及び関係者の方々のお話しをもとに、「住環境相談表」に相談内容や本人のADL状況その他などを記入します。また、現在の住宅の状態を「既存住宅チェック表」に記入。ご本人やご本人と関係する方々とお話をした時には、その内容を「打ち合わせシート」に記入して記録しておく。(それぞれの表とシートなどは予め作成しておくと良いでしょう。)

 ご本人やご家族の意思を改修に反映させるために、施工関係者に重要な事柄を伝えるときには口頭だけでなく文書で伝えるようにすると後日のトラブルを回避することができるでしょう。ご本人やご家族からの改修の変更があったときにも、文書に残し確認してから改修にあたったほうが良いでしょう。

 改修において、ご家族のうちで一番発言権を持っておられる方(キー・パーソン)がどなたかを把握しておくと良いでしょう。 

○ご本人の身体状況について

 身長147cmぐらいで要介護1の認定を受けている高齢者(女性)であります。移動動作については、現在手押車(シルバーカー)を両手で押しながら移動している。何か支持するものがあれば(シルバーカー及び歩行支援用具など)時間はかかるが歩行可能である。右下肢に力が入りにくく、下肢の上がりが悪くすり足状態なのでフラットな状態で移動できるのが望ましい。食事動作は問題ないが、排泄動作・更衣動作は一部介助、入浴動作についてはある程度の介助が必要である。

 精神機能面は、特に問題ないが非常に控えめな方です。
(ここではご本人のプライバシーの問題もありますので、大まかなADL状況ぐらいに留めておきます。)

○家族構成
 ご本人と息子さんの二人暮らしで、日中は仕事で息子さんはいない。車で約40分ぐらいの距離に嫁いでいる娘さんがいる。 

○改修の希望

 母屋は築100年以上で、お風呂は外にある。築約30年の浴室がない離れを改修したい。ご本人は母屋で暮らしていたが、便所は左下写真の離れの便所を使用していたとのこと(現在、離れで息子さんが暮らしている)。しかしながら、左下写真の便所も使用困難となり、現在娘さんの家で、ベッドの脇にポータブルトイレを置き排泄行為をしているとのことです。

 左上・中央上写真は増改築前の写真ですが、改修前は左下写真の便所・右下写真の廊下そして廊下の左側に六畳の和室が二室(中央下写真のように畳と廊下との段差は3cmあります)と奥に押し入れがありました。お風呂は屋外にあり、段差があって浴室の使用は困難なようです。(既存建物の平図面

 さて、ご本人及びご家族の希望としては、住宅内をフラットにし便所・洗濯室・玄関など手押車(シルバーカー)及び車椅子で生活できるようにしたい、住宅内に浴室も作り車椅子対応にしたい、炊事のためにシステムキッチンも置きたいとのこと。ご本人が日中一人となるために、できるだけ身の回りのことは自分でしたいということであった。

 既存の住宅内に希望する各部屋を配置した案とともに増改築案などを幾つか出したのですが、浴室を作りそして各部屋のスペースが確保された増改築案を選択されました。(増改築後建物の平図面

○各種制度

 岡山市のすこやか住宅リフォーム制度では、助成対象と認められる額の三分の二で上限100万円までの助成を受けられるというのですが、福祉事務所の担当の方にお話を聞いてみると便器の位置が変更になったり増築する部分については該当しないとのこと。

 フローリングにするために、廊下の面に合わせて和室2部屋を改修する場合は床材の変更についてのみ助成を受けられるが、その場合介護保険制度の20万円を差し引くと助成の額は僅かとなってしまう。そして、手続きが一ヶ月以上もかかり、その手続き終了後に工事開始となるということもあり、早急に改修したいということもあって今回はリフォーム制度の申請はしないことを選択されました。

 増改築工事終了後に、ご本人立会いのもとで手すりを取り付け、「手すりの取り付け」に対しては介護保険の住宅改修費の支給を申請することにしました。 

※日常生活用具の給付・貸与について(参考)

  岡山市では、心身障害児(者)の日常生活をより円滑に行われるよう、必要に応じて日常生活用具を給付・貸与しています。(本人または家族の所得状況に応じて費用の一部負担あり)

 18歳以上の身体障害者で下肢または体幹機能障害の2級以上の方に対しては、浴槽(湯沸器含む)の支給があります。(上限60,800円) 詳細なことは、お近くの各福祉事務所でご相談ください。

改修前の便所

和室と廊下の段差

廊下

 

改修のつづき(その2) 

平成13年12月

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