住環境の整備例(1)

T邸増改築工事(その2) 

玄関

各部屋入り口

フローリング

◎契約の前に 

 新築の場合は、図面と見積書を確認していただいた後で正式に契約となりますが、改修の場合は早急に対応しなければならないことから、規模によっては見積書のみでご家族の方が納得すれば工事にとりかかる場合もあります。

 障がい者・高齢者の改修で難しいのは、ご本人にとって過ごし易いのは勿論ですが、ご家族にとっても過ごしやすい住環境にした方が良いということです。そして、特にご本人の身体の状態や精神面などを考慮して部屋の配置、戸の間口や段差をなくすることなどについて、図面作成の段階で考慮しなければならないということです。そこで、より密度の高い打ち合わせを図面作成の段階で必要となるわけです。

 今回の増改築工事では、ドアの有効幅員を80cm以上(車椅子対応の場合)とりたいために、既製のバリアフリー対応の引き戸にしたり、特別注文で引き戸を作成することによって一般の既製のドアよりも割高になるということを予め説明し、電気のスイッチの大きさ、手押車や自操式車椅子対応にするために傷つきにくい床材の使用その他について、なぜ必要かを説明し割高になることを予めご本人やご家族の了解をとっておくようにしました。いろいろなことを説明した後で、それについての意向を聞いて見積書は作成した方が良いということです。

 今回、コーディネーターとして、部屋の配置とともに便器(便座の高さは重要)・浴槽のサイズとそれらの位置についてや引き戸・床材・壁下地・スイッチ・後から取り付ける手すりなどをどのような材質・製品にしたら良いかなどをアドバイスしました。 

 ○既存建物増改築後建物の平面図については、大まかな間取りを参考にしていただければと思っています。

◎施行段階で気をつけた点 

 ○壁下地

  増改築部分について、手すりの取り付けのため12mm厚のコンパネ(合板を貼り合わせた物)を壁下地としました。手すりの位置を自由に決められることから、ご本人だけでなく将来的にご家族の方のためのことも考えてのことです。
 また、棚なども自由な位置に取り付けることができます。下地がしっかりしていると、後からの取り付けに強度などを心配しなくてすむのです。

 ○便所

  今回は、汲み取り便槽の埋設となるのですが、便器を簡易式水洗にすることから汲み取り便槽から便器までの距離が決められておりますので、予め壁からの手すりの位置を計算しておいて便器の位置を決めて工事をしていかなければなりません。

 便座の高さが42cmのものを選択しました。(現在、使用しているポータブルトイレの便座の高さは38cmで、少し立ち上がりにくそうにしていました。このポータブルトイレの高さ55cmの手すりに手をついて立ち上がっていました。ベッドの高さ45cmから立ち上がる際に、高さ50cmの丸椅子に手を置いて立ち上がる。これらのことをトイレの手すりの高さを決める際に参考にしました。

 福祉住環境コーディネーターのテキストでは、便座の高さが45cmを目安にしておりますが、これはあくまでも目安でありますので、できれば実際にご本人にいろいろな高さのトイレを試してもらう方が良いでしょう。

 現実的にご本人の移動が困難で試せないならば、ご家族の方がいろいろな高さの便座を試してみるのも良いかもしれません。便座の高さによって座り心地と立ち上がり易さの違いを少しでも分っていただきたいのです。)

  引き戸について、既存の柱を利用しなければならず既製の引き戸の寸法では有効幅員を80cm以上とることができません。今回は、戸の枠組みの部材を注文するとともに、戸の部分は建具屋さんにオーダーして有効幅員80cm以上を確保しました。

 その時に取っ手の取り付け位置と形状にも注意しました。右下写真の浴室の右側が便所で、操作し易いように大き目の取っ手にしております。

 ○浴槽と窓の位置

  浴槽は和洋折衷型の浴槽で、中央下写真のように浴槽の脇に腰掛けてから入浴できるようにしました。床から浴槽縁までの高さはご本人の希望で45cmにしています。(水はけのために勾配がつきますので若干の誤差あり)

  増改築完了後に、浴槽に手すりを取り付ける場合、特に縦手すりを取り付ける場合に窓の位置が縦手すりと重ならないように配慮しました。中央下写真のように、浴室窓側の壁に横手すりを取り付けていますが、当初の計画では縦手すりを取り付けることも考えて窓の位置を決めました。今回の場合は、ご本人の様子をみて必要ならば後日縦手すりを取り付けることとしました。

  ドアは、増築部分なので予め間口を広めにとることができ3枚引き戸にしました。また、洋間と浴室に段差はなくフラットになっておりますので、右下写真のようにお湯(水)が洋間の方に流れて来ないように浴室ドアの内側にグレーチングを設置して排水するようにしております。 

 ○玄関
  左上写真のように、アルミの3枚引き戸でグレーチング付きのものです。 

 ○外構

  コンクリートのスロープ幅は、有効幅員120cm(一番狭いヶ所)以上で、勾配は十五分の一としました。T邸増改築工事(その1)の増改修後外観の写真のように、途中に踊り場を設けたり、手押車及び車椅子にて玄関引き戸を開ける時に危なくないように、入り口手前50cmの所からフラットにしました。(玄関前高さ39cm、勾配十五分の一で、ゆるやかな傾斜となっていますので写真では分かりにくいかもしれません。)

 ○各入口の有効幅員とスペースについて

  有効幅員について、玄関入口:96cm、洋間入口:引き戸81cm、便所入口:引き戸81cm、浴室入口:3枚引き戸93cm、洗濯室はドア無しで86cmであった。

  スペースについて内寸で、玄関1870×1370、洋間6775×3840+1870×930、便所1860×1930、浴室1650×2530、洗濯室1220×865で、単位はmmです。増築部分は約6uです。 

※図面や打ち合わせ通りの工事が行われているかどうかを、個別工事毎に確認するため現場に行きました。あってはならないことですが、打ち合わせ通りの工事がなされていない場合があるかもしれないからです。

 工事が終わってしまった後からでは、打ち合わせ通りに修復できない場合がありますので、工事工程表(工事の予定表)に従って、なるべく現場を覗きに行くようにしました。

 出来るだけ現場に立ち会って、工事前にもう一度現場を施工監理する人や職人さんと確認し合う方が良いでしょう。 

◎手すりの改修について

 増改築後に、実際にどこにどれぐらいの長さと高さの手すりが必要か、ご本人に確認をとりながら取り付けました。

 増改築の部分は下地がありますが、右上写真のように既存建物の部分や便所引き戸の引き込み側の壁には下地はないので、補強板を取り付けてから手すりを取り付けました。

 左下写真の便所について、便器の並びに洗面台を置きたいということでしたので、便器脇の手すりは上下可動の振り上げ式にしました。

 洋間・玄関は木製手すりで、便所・浴室は樹脂被覆仕上げの手すりにしました。手すりの端部は衣服の袖を引っ掛ける危険があるので、曲がり金物を使用しました。

 ケアマネージャーさんのほうから、「介護保険の住宅改修が必要な理由書」は福祉住環境コーディネーターである私のほうで作成してくださいということでしたので、私が作成し写真(改修前・改修後)などとともに福祉事務所に申請しました。

 申請してから介護保険給付金支給決定通知書が届き、その後に居宅介護住宅改修費が岡山市よりご本人に振り込まれていたという報告を受けました。今回、振り込まれるまでに約2ケ月間でしたが、ケアマネージャーさんのお話ですと3ケ月以上かかるケースもあるということです。

便所

浴室

浴室のグレーチング

◎モニタリング

 最初は手すり改修後、3日後に様子を聞いてみました。便所や浴室の手すりを利用してそれぞれの用を足しているとのこと。(入浴について、試してみたら一人でも浴槽の出入が何とかできたとのこと) 左下写真の洗濯室にて洗濯をする時に、床の上に置いてある洗濯粉が取りにくかったが、息子さんが取り易いように棚を作ってくれたとのこと。

 2回目は2ケ月後に電話及び訪問して聞いてみました。少し膝が痛くて歩き辛いが、その他は変わりはないとのことでした。入浴について、ご本人一人でも入浴できないこともないが、安全のため週2・3回娘さんに介助してもらいながら入浴している。

 勿論、浴室は息子さんも利用している。右下写真のキッチンで料理を作り、この部屋でご本人と息子さんが食事をしているとのこと。

 また、手押し車がもう一台外用に欲しいとのこと。今まで家の外に自分から出ようという意欲がないように、ご本人からも息子さんからも聞いておりましたので、改修後外に出て散歩しようという意欲がわいてきたのを聞いて大変喜ばしいことであると感じております。

 冬の間は寒いので春頃暖かくなったら外に散歩に出たいと話しておられました。手押車につきましては、後日息子さんが購入したと聞きました。

洗濯室

キッチン前

 

◎あとがき 

  ご本人及びご家族のプライバシーもありますので、ここで紹介したのはほんの一部分で大まかなことです。

 ここにあげた事例は、改修の方法としては分かり易いほうだと思いますが、改修にはいろいろと気遣う点があるということを分かっていただけたらと思っております。

 障がい者・高齢者の改修は、ご本人にとってもご家族にとっても過ごしやすい住環境にした方が良いということが理想であることは前にもお話しましたが、それはご本人にとって過ごしやすい住環境とともにご家族の方々(ヘルパーの方々)にとって介助し易い住環境であるということです。

 ですから、コーディネーター(調整役)は、ご本人の身体の状態をよく理解した上で、ご家族の要望を考慮しながら、どのようにしたら皆さんの要望を満たすことができるのかその方法を提示できる方でなければなりません。

 コーディネーターとなる方が建築士・ケアマネージャー・作業療法士・理学療法士・役所の方・福祉住環境コーディネーターなど、どなたがなってもかまわないと思うのですが、ご本人やご家族の要望を満たすために、例えばご本人が医者・ケアマネージャー・療法士・福祉用具の業者の方々などと関わっている場合は、その方々にお話を聞きながらその方々と連携して住宅の改修をして行こうとするコーディネーターが望ましいと思っております。良きコーディネーターとともに住宅改修を成功させていただきたいと思っております。
 
 また、家具を移動するだけでも悩みは解消される場合もありますし、福祉用具を使えば何とかなる場合もあります。家具の移動及び福祉用具の利用だけでは悩みが解消されない時に住宅の改修となるわけですから、コーディネーターは病気(身体)についての知識や福祉用具についての知識そして各種の制度についても精通していた方が良いでしょうし、勿論建築の知識もあったほうが良いでしょう。

 コーディネーター(調整役)は幅広い知識が要求されるものと思っておりますので、私もいろいろな講習会に参加したり改修の実例を掲載した本などを読んで知識を高めようと思っております。そして、福祉住環境コーディネーターとして、微力ながらも皆様のお役に立ちたいと思っております。

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平成13年12月 

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